抗がん剤で起こりやすい副作用「骨髄抑制」とは?

「骨髄抑制」という副作用を知っていますか?

もし聞いたことがなくても、抗がん薬治療中に、

「好中球が低いので今日はお休みしましょう」

と言われたことや、

「ヘモグロビン、血小板の数値が基準値より低い」

といった経験はありませんか?

骨髄抑制は多くの抗がん薬で起こる、頻度の高い副作用のひとつです。

またがん薬物療法において、一番問題になる用量規定因子でもあります。1
(※使用する薬の量をこれ以上増量できない理由)

特に好中球が減少すると発熱の危険性が高く、重症化して生命に関わることも。

今回、骨髄抑制について、副作用が起こる理由や自覚症状、検査値の見方などについて解説します。

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目次

骨髄抑制はなぜ起こるのか?

まず「骨髄抑制がなぜ起こるのか?」について、見ていきたいと思います。

骨髄抑制とは文字通り、「骨髄の機能が抑制されること」で起こる副作用です。

骨髄とは骨の中心部にある組織のことで、その機能として血液の成分「血球」をつくっています。

血球には、白血球・赤血球・血小板などがあり、これは多能性造血幹細胞という全ての血球に分化できる細胞が、骨髄で徐々に成長したものです。

出典:造血 – Wikipedia

つまり骨髄の機能が抑えられると、白血球、赤血球、血小板などが低下することに繋がります。

そのため骨髄抑制は別名、「血液毒性」とも呼ばれています。

血液製造工場である骨髄は、細胞分裂が活発なため、抗がん薬の作用を強く受けてしまうのです。

血球(好中球・赤血球・血小板)の役割

上述のように、骨髄抑制によって低下する血球。

これらは私たちの身体にとって、どのような役割を担っているのでしょうか?

好中球(白血球のひとつ)、赤血球、血小板について見ていきます。2

好中球

好中球は白血球の約半数を占め、細菌などの侵入に反応して感染を防ぎます。

血管を通って炎症部位に到達し、細菌などを細胞内に取り込んで(貪食)殺菌するのが特徴です。

採血結果で好中球が高いと、細菌感染の可能性を疑います。
(ジーラスタ®などG-CSF製剤の使用でも上昇します)

赤血球

赤血球は血球の99%以上を占め、全身に酸素を運搬する役割を担っています。

血液が赤いのは赤血球のヘモグロビンという成分の色で、酸素と結合すると鮮赤色(動脈血)、結合していないと暗赤色(静脈血)をしています。

また豆知識ですが、赤血球は細胞核を持たず中央部がくぼんでいることで、表面積を増やして効率的なガス交換ができる、細い血管も変形して通過できる、より多くのヘモグロビンを含める、といったメリットがあると考えられています。

血小板

血小板はケガなどで出血したときに、最初の止血(一次止血)を行う成分です。

普段は円盤状の形をしていますが、出血を感知すると活性化して、腕(偽足)を伸ばしてお互いにくっつき合い止血します。

2~4μmと血球の中で最も小さい細胞。

このように血球成分は、私たちの生命活動にとって、非常に重要な役割を担っているのです。

自覚症状と検査値の見方

では、それぞれの血球成分が低下すると、どのような症状が起こるのでしょうか?

また起こりやすい時期の傾向について、まとめると以下のようになります。

好発時期が血球成分によって異なる傾向があるのは、それぞれが体内で分解される期間が異なるためです。

また使用する抗がん薬によっても好発時期や、作用しやすい血球が異なります。

自覚症状に関しては、骨髄抑制が進行してから現れるものがほとんどで、症状が現れる前に採血結果をみて抗がん薬中止を検討します。

ただし、発熱などは毎日体温を測定し、体調管理のアプリなどで毎日確認することが大切です。

中止を検討する採血結果の基準は、CTCAEv.5.0のGrade2以上となります。3

出典:CTCAE v5.0 -JCOG

ただしこれはあくまで目安であり、貧血のHgb(ヘモグロビン)値は8未満で中止を検討することも多いです。

また抗がん薬治療の目的(術後補助療法か再発転移かなど)、価値観などを考慮して決定するため、
「必ず採用しなければいけない」といった基準ではありません。

どのような目的で治療を受けているか、医療者と共有しておくことが大切です。

また重篤例では、好中球減少には抗生剤や好中球を増やす薬剤、ヘモグロビンや血小板の低下では輸血などが使用されます。

まとめ

今回、骨髄抑制の全体像についてまとめてみましたが、いかがだったでしょうか?

何気なく見ていた採血結果の血球成分が、どのような役割を担っているか、抗がん薬を中止する理由など理解できると、治療への向き合い方も変わると思います。

また今回、ボリュームの関係で詳細な対策は割愛しましたが、次回に詳しくまとめたいと思います。

少しでもがん治療の理解が深まり、質の高い薬物治療を受けられることを願っております。

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にしかわ

この記事を書いた人

薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師などを取得 / 緩和ケアチーム / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在、在宅医療に従事しながら株式会社Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / X(旧Twitter)

  1. 日本臨床腫瘍学会・編:発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改定第2版. 南江堂, 2017 ↩︎
  2. 医療情報科学研究所・編:病気が見えるvol.5 血液 第2版. メディックメディア, 2017,p22,82,210-213 ↩︎
  3. CTCAE v5.0 -JCOG 2022年9月1日版 ↩︎
にしかわ

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