突然ですが、多くの抗がん剤で「眼の副作用」が起こることをご存じでしょうか?
例えば、TS-1Ⓡというお薬は涙の通り道をふさいで、涙が止まらなくなってしまうことがあります。
例えば、パクリタキセルでは視界がゆがんで見える「黄斑浮腫」という副作用を起こすことが知られています。
またパニツムマブでは「まつ毛」が異常に伸びてしまう副作用が知られています。
このような症状を「副作用」と知らなければ、気のせいと考えてしまい、対策しないまま重篤化してしまうかもしれません。
でも、もし副作用と知っていたら、医療者に相談して適切な治療を受けられるかもしれません。
そこで今回、眼に関する様々な副作用と対策、点眼薬の正しい使い方と間違った使い方を紹介したいと思います。
「もっと早く知っておけば」と後悔しないよう、症状が出る前に眼の副作用を知っておきましょう。
眼の構造
眼の副作用を知る前に、眼の構造についてご紹介します。
前回の記事にも記載しましたが、もう一度確認していきましょう。
こちらは眼を横から見たイラストです。
ものが見える仕組みとしては、虹彩で入ってくる光の量を調節して(絞り)、水晶体の厚みを毛様体筋で動かしてピントを調節(レンズ)、それを網膜に写して(フィルム)、視神経を通って脳が映像を認識する、といった感じです。
がん治療薬によってダメージを受けると考えられている部位は、
角膜・結膜・強膜・ぶどう膜(虹彩、毛様体)・視神経・黄斑・網膜など、多くが該当します。
次は、正面からみた眼の周り、涙道のイラストを見ていきましょう。
涙は涙腺から分泌された後に、2か所の涙点から出て、鼻涙管を通って喉の方へ流れていきます。
この涙の出口をまとめて涙道といい、涙の9割はここから流れ出ていくと言われています。
そして涙腺、涙道もがん治療薬によって障害されることが知られているのです。
眼の副作用と対策(一覧)
眼の構造がわかったところで、がん治療薬と眼の副作用を見ていきたいと思います。
がんの治療薬は、殺細胞性抗がん薬、分子標的薬、ホルモン療法薬、免疫チェックポイント阻害薬といった大きく4つに分類されていますが、すべての種類の薬で眼の副作用が起こります。
眼の症状は医療者から伝えられない場合も多く、患者さん自身も症状があっても、
「老眼かな」、「疲れが目にきてるのかな」、など、気のせいと判断しがちです。
放置して重篤化してしまう前に、その症状が副作用であること、対策方法を知っておいてください。
では、薬剤ごとの副作用とその対策を見てみましょう。1,2,3,6,7,8,9,10)
もう少し詳しく記載したものが、以下の表になります。
画面をタップすると拡大して見れます👆
ご覧のように、とても多くの抗がん剤が、様々な眼の副作用を起こす可能性があることがわかります。
しかし、ここに記載したものも一部に過ぎません。
そのため気になる症状があれば主治医もしくは眼科医の先生に相談しましょう。
さらに「知り合いの薬剤師からこの抗がん剤で眼の副作用が出ると聞いた」と添えてもらうと、より注意深く症状を聞いてくれるかもしれません。
遠慮なく困っていることは伝えてくださいね。
EGFR阻害薬による眼の副作用
この中で、ベクティビックスⓇ(パニツムマブ)による副作用、「睫毛(まつげ)が伸びる」について少しく詳しくお話させていただきます。
ベクティビックスⓇは、EGFR(上皮成長因子受容体)というがんの増殖に関わる信号を抑えるお薬です。
EGFRの活動を抑えるお薬は他に、アービタックスⓇ(セツキシマブ)やタルセバⓇ(エルロチニブ)など多くの薬剤があり、いずれも「まつ毛」の副作用を起こす可能性があります。
女性の方は、「まつ毛が伸びるなら嬉しい!」
と、感じる方が多いかもしれませんが、症状が悪化するとまつ毛が絡まったり、眼に入って角膜を傷つけたりしてしまう事があるのです。
そのため対策として、まつ毛をカットしたり抜いたり、角膜保護の点眼薬を使用したりします。
12mm以上の睫毛を「長睫毛症(trichomegaly)」と言い、症状が悪化すると以下の写真のようになってしまいます。
タモキシフェンによる眼の副作用
また表には記載がないですが、「タモキシフェン」も視力の低下を起こすことが知られています。
(網膜の血管に炎症が起きることが原因と考えられています)
添付文書には頻度「0.1~5%未満」と記載されていますが、10%を超えるといった報告もあり、実際には多くの人が医療者に相談せず我慢しているのかもしれません。
またある研究では、網膜症を起こしやすい人の特徴として、BMIが高い人、高脂血症のある人があげられています。3)
対策は、タモキシフェンの休薬が勧められますが、がん治療とのバランス、薬効による更年期症状(ドライアイ)の可能性などを考慮しつつ、慎重に検討する必要があります。
更に詳しく知りたい方は、静岡がんセンターのページ『薬別の眼の症状と対処法 | 静岡がんセンター (scchr.jp)』をぜひご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
普段あまり意識していない眼の副作用。
その頻度は他の副作用と比べて少ないものかもしれませんが、非常に多くの薬剤で起こることが知られています。
「最近、眼の調子がおかしい」
そう感じたらまず副作用を疑ってください。そしてどのような副作用にも言えることですが、気になる症状があれば自分で「これは副作用ではない」と判断せず、医療者を頼って相談しましょう。
きっと力になってくれるはずです。
参考文献:
1)がん化学療法副作用対策ハンドブック第3版 「眼障害」p.180-185
2)原浩章昭 佐藤敬子がん化学療法に見られた眼合併症
3)薬別の眼の症状と対処法 | 静岡がんセンター (scchr.jp)
4)タモキシフェン網膜症の有病率と危険因子-眼科 (aaojournal.org)
5)転移性結腸直腸癌の治療におけるセツキシマブによる長睫毛症
6)腫瘍学における生物学的薬剤の眼の副作用:臨床医は何に注意すべきですか?- パブメッド (nih.gov)
7)免疫チェックポイント阻害剤の眼科的副作用:メイヨークリニックの経験-PubMed (nih.gov)
8)免疫チェックポイント阻害剤の眼および眼窩の副作用:総説 – PubMed (nih.gov)
9)分子標的抗がん剤の神経眼科的副作用 – PubMed (nih.gov)
10)MEK阻害剤に関連する眼の有害事象-PubMed (nih.gov)
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
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