大切な人が標準治療を避けようとするとき、皆さんはどのように声をかけますか?
一人の医療者としてずっと悩んできたこと、自分なりに言葉にしてお伝えできることをご紹介したいと思います。
今、悩んでいる方にとって何かのヒントになれば幸いです。
「否定された」という気持ち
まず標準治療とは、何でしょうか?
標準治療は、以下のように定義されています。
標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます。
出典:がん情報サービス用語集「標準治療」より一部抜粋
自分にとって大切な人ほど、標準治療を受けて欲しいですよね。
なので、 それを避けようとする人に対して、
「標準治療を否定するのは間違ってる」
「科学的根拠に基づいた治療をしてほしい」
「民間療法でがんが治るわけがない」
語気を強めてそう言いたくなると思います。
でも、少し立ち止まって考えていただきたいのですが、そう言われた相手はどう感じるのでしょうか?
「自分が必死になって調べて辿り着いた治療法が否定された…」
「自分が信じていることを否定された…」
きっと自分のことを思って言ってくれている、大切な情報を伝えてくれている、と感じる前に、
「自分自身を否定された」と、感じてしまうのではないでしょうか。
そして、否定されたと感じたら、自分自身を必死に守りたくなると思います。
自分を守るために壁を作ったり、場合によっては攻撃的になって、言い争いになるかもしれません 。
「良くなってほしい」というゴールは同じはずなのに、お互いが反発を強め、結果的に大切な人を失ってしまう。
これはお互いにとって、とてもつらい事ですよね。
実際、そのような場面を多く見てきました。
では、どうするのが良いのでしょうか?
ゴールは同じ、あなたの味方
ここからは、僕自身が経験したうまくいった事例をご紹介します。
「うまくいった」というのは、対話を重ねた上で、最終的に納得して前向きに標準治療を受けていただくことができた事例です。
まず忘れてはいけないのが、「病気が治ってほしい」「良くなってほしい」という思いは同じだということです。
プロセスが異なっていても、目指すゴールは同じ。
この認識を言葉にして、しっかり共有することをおすすめします。
そして、「私はあなたの味方ですよ」というメッセージを伝え、理解してもらうことが大切です。
あなたの価値観や考え方を否定したいわけではなく、あなたに良くなってほしい。
これを最初に理解してもらってから、話し合いを始めましょう。
「解凍」という心理プロセス
続いて、「解凍」というプロセスを大切にして欲しいと思います。
解凍とは、「レヴィンの変革プロセス」から引用したもので、会社など組織改革を起こすとき、「解凍⇒変革⇒再凍結」の3段階のプロセスが必要になる、という考え方です。
四角い氷を丸い氷に変えたいとき、叩いて丸くするのは難しいけれど、一度溶かして丸い型に入れて凍らせれば、丸い氷ができますよね。
組織(人)を変えるためには、まず固まった考え方をほぐして(解凍)からでないと、新しい考え方には変わらないという考え方です。
これはがん治療においても同じで、「抗がん剤は毒」という考えを持ってる人に対して、その考えを叩いて変えようとするのではなく、まずはその考えに至った経緯を傾聴して、一緒に解凍していくプロセスが必要だと言えます。
その考えが強固なときほど、このプロセスは時間や労力が必要になるかと思いますが、これが一番の近道だと僕は考えます。
味方だと認識してもらい、心理的安全性が確保された上で、考え方に共感しつつ解凍していく。
そのプロセスを経て初めて、標準治療のメリットなどを伝えることができるのではないでしょうか。
まとめ
今回、「標準治療を受けてほしいのに受けてくれない」といったご家族の立場から、どのように対話するのが良いか、僕なりの考えをお伝えさせていただきました。
ゴールは同じであり味方だと認識してもらうこと、標準治療を拒否するに至った経緯を共有して、考えを解凍してもらうこと。
このようなコミュニケーションを、良ければ取り入れてみてください。
すべての人が納得して治療を受けられることを願っています。
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げを経験 / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
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