病院で抗がん薬の説明を受けた日、
自宅に戻ってから「説明された内容を全く覚えていない」と感じたことはないですか?
実はこのようなことがよく起こります。
むしろ当然のことかもしれません。
なぜなら気持ちが落ち着いていない中、短い時間にとても多くの情報が伝えられるからです。
では理解できないまま、治療のことは全て先生にお任せしておけばよいのでしょうか?
その答えは「ノー」です。
副作用を正しく理解して、自分自身でしっかり管理すること、それは薬物療法を続けていく上でとても大切なことです。
では具体的に、副作用の何をどのように理解すればよいのでしょうか。
今回その方法についてにまとめました。
では、一緒に見ていきましょう!
副作用の何を理解するべきか?
まず最初に抗がん薬の副作用を「理解する」とは、どういうことなのでしょうか?
それは「薬の薬効分類、副作用が起こる作用機序などを理解して…」という事ではありません。
患者さんが理解して覚えておいてほしいのは「実際に役立つ情報」です。
具体的には、以下のようなものがあげられます。
- どんな時に病院へ連絡、受診した方がよいかのという基準
- 自覚できる副作用、自覚できず検査してわかる副作用があること
- 副作用が起こりやすいタイミング
- 身体的な苦痛、精神的な苦痛との向き合い方
このように4つのポイントに絞ると、副作用が少し理解しやすくなるかと思います。
さらに重要なものから①→②→③→④と優先順位をつけていきます。
そして副作用の対策は、「エビデンスに基づくもの」「価値観を尊重したもの」という考え方が大切です。(今回、対策についての詳細は割愛)
これらを1枚の図にまとめると、下図のようになります。
①・②は副作用の重篤化を防ぐための理解、
③・④は副作用とうまく付き合うための理解、
そのようにイメージしていただくとよいかもしれません。
ここから図の活用方法について解説していきます。
①症状が出たらすぐに対応、症状が強くなったら対応
まず一番に優先して知っておいてほしいこと。
それは、「どのような症状が出たら病院へ連絡・受診したらよいか」という基準です。
副作用には、緊急性が高く症状が出たらすぐに対応した方がよいものと、症状が強く現れるようになってから対応してよいものがあります。
緊急性の高い副作用には以下のような例があげられます。
造血器系 | 発熱性好中球減少症 |
循環器系 | 静脈血栓塞栓症 |
呼吸器系 | 間質性肺炎 |
消化器系 | 消化管穿孔 |
内分泌系 | 腫瘍崩壊症候群、電解質異常 |
泌尿器系 | 出血性膀胱炎 |
その他 | インフュージョンリアクション |
症状が強く現れるようになってから対応する副作用では、CTCAE2)でグレード2~3の基準に該当する副作用症状です。
このように緊急性のある副作用かどうか、どのような症状で病院へコンタクトを取ればよいかといった情報は、必ず知っておかなければいけない情報といえます。
もしわからなければ、医療従事者に確認してメモしておくこと、または病院で渡される治療冊子に記載されている基準を確認しておくことをおすすめします。
②自覚症状のある副作用、検査でわかる副作用
次に自覚できる副作用、自覚できない副作用があることを知っておきましょう。
特に注意していただきたいのが、「自覚できないから副作用は起きていない」と勘違いしてしまうことです。
自覚症状のない副作用の例として、「骨髄抑制」があります。
これは好中球や血小板などが減少してしまう副作用で、感染症のリスクが上がったり、出血などが起こりやすくなるのが特徴です。
自覚症状がなくても、検査すると好中球がかなり低下していて抗がん薬が使用できなかった、といった経験をされた方も少なくないと思います。
副作用のリスクを想定した行動を心がけましょう。
③早期に起こる副作用、遅れて起こる副作用
次に大切なことが、「副作用がいつ起こりやすいか?」というタイミングについて知っておくことです。
そして副作用は抗がん薬を使用してすぐに起こるもの、遅れて起こるものがあることを知っておいてください。
先述の骨髄抑制もそのひとつで、抗がん薬使用後10~14日前後と遅れて起こりやすいことが知られています。
また下痢でも当日中に起こるものと1週間後に起こるもの、末梢神経障害も当日中に起こるものと回数を重ねて慢性的に起こるものなどが知られています。
そしてこれらの副作用は、ある程度タイミングを予測することが可能です。
②・③を合わせたわかりやすいグラフがあるので、こちらをご覧ください。
こちらは細胞障害性抗がん薬のものですが、このように起こりやすい時期というのが知られています。
副作用が起こりやすいタイミングを把握しておくと、仕事や家事などを工夫したり、周りのサポートを受けられる環境を準備しておくことができます。
また個人差があるため、ご自身の体調変化を記録して次コースで活かせるようにしておきましょう。
どこでも簡単に記録できるアプリ「ribbons」の活用がおすすめです
④身体的な苦痛、精神的な苦痛
ここまでは副作用による身体的な副作用について紹介してきましたが、副作用には精神的な苦痛が伴うことを忘れてはいけません。
精神的な苦痛は他人から見えにくいため理解されづらく、孤独を感じて治療へのモチベーションが大きく低下してしまう原因になります。
がん薬物療法中は副作用として、「精神的な症状が必ず起こる」と認識しておいてください。
それは薬剤が脳内の神経伝達物質に直接影響を及ぼすだけでなく、
“吐き気がつらくて何もしたくない”
“不安で夜も眠れない”
“脱毛が起こって人に会いたくない”
といった精神的苦痛も含まれます。
副作用症状に少しずつ慣れてくるとコーピング(対処)できることもありますが、一番よい対策は一人で抱えず信頼できる医療スタッフ、周りの人に頼ることです。
どうか一人で抱え込まないでください。
まとめ
今回、抗がん薬の副作用全般をどのように整理して理解するとよいのか、という方法についてお話してきました。
この記事を通して「ややこしくて覚えづらく、漠然と不安な副作用」から、
「整理して理解できている、不安だけど対処法を知っている副作用」へ、
少しでも認識が変わってくれればいいなと考えています。
そしてがん治療中の方の毎日が、少しでも不安なく過ごせることを願っています。
参考文献:
1) がん化学療法副作用対策ハンドブック第3版「緊急処置が必要な副作用」より引用・改編
2) CTCAEv5J_20220901_v25_1.pdf (jcog.jp)
3) 国立がん研究センターがん情報サービス「化学療法全般について」
薬物療法 もっと詳しく:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げを経験 / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
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