乳がんホルモン療法「ホットフラッシュ」【機序と対策】

暑い季節、乳がんホルモン療法中の多くの方にとって、生活の質を下げるつらい副作用「ホットフラッシュ」。

「ホットフラッシュ」とは、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が低下したことによって起こる、急に暑くなったり、汗が止まらなくなる、といった症状です。

乳がんホルモン療法を受けられている方の、50%以上に起こると言われています。

また、急に暑くなることで、日常生活での強い不安や、不眠症につながってしまうケースも少なくありません。

今回、この厄介な副作用「ホットフラッシュ」について、それが起こる理由と対策をご紹介していきたいと思います。

目次

ホットフラッシュは、なぜ起こる?

乳がんのホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬など)は、エストロゲン(女性ホルモン)の作用を遮断、 または産生を抑制します。

これは「がんの増殖」を抑えることが目的ですが、もともとエストロゲンには、

  • 月経や妊娠などの性機能
  • 骨密度の維持
  • 自律神経の安定や体温調整

といった働きがあります。

そのため、エストロゲンの作用が抑えられることで、体温調節がうまくいかなくなってしまうのです。

もう少し、体温調節の機序を詳しく見ていくと、

  1. エストロゲンが減ったと脳(視床下部)が感知する
  2. 視床下部の体温調節機能(体温の設定値を決めるような働き)が乱れる
  3. わずかな体温の変化でも「暑すぎる、体を冷やせ!」と指令を体に出す
  4. 交感神経が亢進して、皮膚の血管を拡張(熱を逃がす)、汗腺を刺激して発汗(体を冷やす)
  5. ホットフラッシュ

このような流れで、症状が起こっていると考えられています。

また、更年期症状でもこのような症状が起こるのは、同様にエストロゲンの分泌が低下しているためです。

ホットフラッシュの対策(薬物療法と生活の工夫)

一般的には、「ホルモン療法を開始して数か月すれば症状が治まる」と言われていますが、症状が続いているという声も多く聞きます。

まずは、一人で抱え込まず、主治医の先生や看護師さんなど医療従事者へ相談してください。

その上で、具体的にどのような対策方法があるのか、一緒に見ていきましょう。

薬物療法

・セロトニン作動性の抗うつ薬1):セルトラリン、パロキセチン、べンラファキシン
・抗てんかん薬:ガバペンチン1,2)
・降圧薬:クロニジン3)
・漢方薬:加味逍遙散4)
など

薬物療法のラインナップとして、このような選択肢があげられます。

ただしこれらのお薬は確立された治療というわけではなく、保険適用の問題や副作用のリスク、エビデンスが限定的であるなど、色々な背景を踏まえながら慎重に使用されます。

また注意点として、タモキシフェンはパロキセチンと併用することで、その薬効が弱まってしまうと考えられているため、併用薬に気を付けなければいけません。5)

これは、パロキセチンがタモキシフェンを活性化(効果を高める)するCYP2D6の代謝を阻害してしまうためと考えられています。

このようなリスクを避けるため、お薬手帳を持参して、薬剤師さんへ相談しましょう。

パロキセチン併用で起こるタモキシフェンの薬効低下の機序

加えて、乳がんホルモン療法を行っていることを伝えずに婦人科を受診すると、女性ホルモンを補充する薬が処方されてしまうかもしれません。

これは一般的に更年期症状で行われる治療ですが、乳がんホルモン療法中に使用することで、がん治療の効果を弱めてしまうリスクが知られています。6)7)

婦人科へ受診される際は、乳がんホルモン療法中であることを、しっかり伝えましょう。

服装で暑さを調節する

環境に合わせて着脱しやすい調節できる服装を意識しましょう。また、襟元の開いた服、吸湿・速乾性の高い素材、エアリズムなど冷感インナーなどもおすすめです。

冷感グッズの活用

最近では猛暑の影響もあり、多くの冷感グッズが販売されています。例えば、ネッククーラー、首掛け扇風機、冷感スプレーなどがあります。状況に合わせてご活用ください。

香辛料や熱い食事を避ける

香辛料の多く入った食事、熱いものは、ホットフラッシュを起こすきっかけになりやすいと考えられています。
その他、アルコールやカフェインなども注意しましょう。

ストレスケアを意識する

ホットフラッシュは、ストレスがきっかけで発作的に起こることがあります。

そして、そのきっかけを知っておくことで、事前に対策することができます。

しかし、「何がきっかけになっているか」を知るため、アプリ(ribbonsbase.com/lp/ribbons/)やメモで記録しておくことが大切です。

記録を見返してきっかけを把握し、それを避ける対策を考えましょう。

ribbonsの「治療日記」画面

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まとめ

今回、乳がんホルモン療法中に起こる副作用「ホットフラッシュ」についてまとめました。

ホットフラッシュは、乳がんホルモン中の方だけでなく、前立腺がんのホルモン療法、卵巣がん、精巣がん、更年期の方にも起こります。

対策方法は異なるかもしれませんが、生活の工夫など、多くの方に参考にしていただければ幸いです。

近年、猛暑日が長く続いております。

熱中症にも気を付けて、上手にこの季節を乗り切りましょう。

にしかわ

ここまでご覧いただきありがとうございました。

参考文献:

1)Loprinzi CL, Sloan J, Stearns V, Slack R, Iyengar M, Diekmann B, et al. Newer antidepressants and gabapentin for hot flashes:an individual patient pooled analysis. J Clin Oncol. 2009;27(17):2831-7. PMID:19332723
2)Toulis KA, Tzellos T, Kouvelas D, Goulis DG. Gabapentin for the treatment of hot flashes in women with natural or tamoxifen-induced menopause:a systematic review and meta-analysis. Clin Ther. 2009;31(2):221-35. PMID:19302896
3)Goldberg RM, Loprinzi CL, O’Fallon JR, Veeder MH, Miser AW, Mailliard JA, et al. Transdermal clonidine for ameliorating tamoxifen-induced hot flashes. J Clin Oncol. 1994;12(1):155-8. PMID:8270972
4)Zhu S, Lu Y. Dexmedetomidine Suppressed the Biological Behavior of HK-2 Cells Treated with LPS by Down-Regulating ALKBH5. Inflammation. 2020 Dec;43(6):2256-2263. doi: 10.1007/s10753-020-01293-y. PMID:32656611
5)Goetz MP, Rae JM, Suman VJ, Safgren SL, Ames MM, Visscher DW, et al. Pharmacogenetics of tamoxifen biotransformation is associated with clinical outcomes of efficacy and hot flashes. J Clin Oncol. 2005;23(36):9312-8. PMID:16361630
6)Brincat M, Muscat Baron Y, Ciantar E. Hormone replacement in women with breast cancer: the HABITS study. Endocrine. 2004 Aug;24(3):255-7. PMID: 155428947) Holmberg L, Iversen OE, Rudenstam CM, Hammar M, Kumpulainen E, Jaskiewicz J, et.al. Increased risk of recurrence after hormone replacement therapy in breast cancer survivors. J Natl Cancer Inst. 2008 Apr 2;100(7):475-82. PMID: 18364505

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