こんにちは。
最近はだいぶ秋らしく涼しくなりましたね。
気温が下がって空気が乾燥していると風邪を引きやすく、病院や薬局で薬を貰うことがあると思います。
そんな時は「通院している病院ではなく、家の近くのクリニックで」という方も多いでしょう。
または眼に違和感があると眼科へ行ったり、季節性の花粉症があると耳鼻咽喉科へ行ったりすることがあると思います。
しかし、このような場合、現在がん治療で使用しているお薬と「相性が悪いもの」が処方されてしまうことがあります。
抗がん剤の副作用が増強してしまったり、薬効を下げてしまうものなど、様々なリスクが考えられます。
では、どうすればそのリスクを防ぐことができるのでしょうか?
その工夫について解説してきたいと思います。
あなたは今飲んでいるお薬のこと、どれだけ知っていますか?
自分を守るためのツール
薬を間違った使い方をすると、副作用が起こりやすくなることは皆さんご存じですよね。
しかし使い方だけでなく、別のお薬との「相互作用」も大きく問題になることがあるのです。
例えば、タモキシフェンという乳がんのお薬を使用中の方が、パロキセチンという抗うつ薬を併用したことで死亡リスクが上がったとの報告もあります。1)
もちろん他のお薬でもこのようなリスクはあり、注意が必要です。
そこで患者さん自らできる「薬のリスクを下げるための工夫」ですが、
一番大切なことは「お薬手帳」を持ち歩くことだと思います。
お薬手帳って、ただシール貼るだけでしょ?
もしかしたらそのようなイメージがあるかもしれません。
でもそれは手段であって目的ではありません。
お薬手帳の目的は、患者さん自身が服用歴を携帯すること、医療者同士が情報共有することです。
A病院で処方されているお薬を、Bクリニックの医師が確認、その上で相互作用を避けたお薬を処方する、といったツールとしてお薬手帳は活躍します。
またA病院とBクリニックで処方されているお薬を薬剤師がチェックし、問題があれば薬剤師から医師へ問い合わせてお薬を変更してもらうこともあります。
・同じ薬効の違う名前の薬が重複して処方されている
・薬から予想される病名に対して使ってはいけない禁忌の薬が処方されている
・飲み合わせの悪いものによって副作用が起きている
といった問い合わせが多い印象があります。
また、あまり知られていないと思いますが、薬局でお薬手帳を渡すと少し「値引き」もされます。
お薬手帳を持ち歩くことはメリットしかありません。
保険証と一緒にバッグに入れて、持ち歩くようにしましょう。
また「電子お薬手帳」もありますが、個人的には紙のお薬手帳を活用してほしいと思っています。
紙なら困った症状を書き込める、医療者同士で情報共有がしやすい、交通事故など意識を消失してしまった時でも薬を確認できる、といった良い点がたくさんあるからです。
お薬手帳に「気になる症状」と「その日付」を記入して医療者に見せましょう。
薬の添付文書とは?
お薬手帳で医療者と情報共有した上で、次に大切なことは患者さん自身が「薬のことを知る」ということです。
チーム医療で患者さん自身が主体的に関わることは、とても大切です。
そのために必要なことは、医師や薬剤師から薬の情報をしっかり確認しておくこと、次に薬の「添付文書」を確認することです。
添付文書ってご存じでしょうか?
これは患者さんが安全に薬を使用するため、医薬品を適切に使用する際の基本となる公的文書のことです。
薬は添付文書の内容に沿った使い方をすることで、初めて薬としての価値を発揮します。
デタラメに使うと薬ではなく、ただの毒になってしまいます。
添付文書には薬を構成する成分、効能効果、用法用量、相互作用、副作用など多くの情報が記載されています。
百聞は一見にしかず、実際に見てみましょう。
こちらはノルバデックスⓇ(タモキシフェン)の添付文書になります。2)
添付文書は誰でこちらの「医療用医薬品 情報検索」から閲覧することができます。
ただ、見ていただくとわかるように、文字がたくさんあって見にくいですよね…。
実際すべてを把握することは難しいですし、その必要もないと思います。
では、どこに着目すれば良いのでしょうか?
添付文書の活用方法
文字が多く、専門用語ばかりで読みにくい添付文書。
その中でも見てほしい部分を目立たせてみます。
- 禁忌
赤枠で囲った、冒頭の禁忌の項目。
ここには「この薬を使ったらいけない人」、「この薬と一緒に使ったらいけない薬」が書かれています。
該当していないかチェックして、該当があれば必ず医師へ伝えてください。
- 相互作用
青枠の相互作用の欄。
今飲んでいる薬と「飲み合わせ」の悪いものが、ここに記載されています。
先述しましたが、この相互作用は思わぬ影響を及ぼしている場合があるので注意が必要です。
また相互作用を承知の上で処方されている場合もあるので、該当したときは医師または薬剤師に相談してください。
また記載がないものの相互作用を起こすこともあるので、心配であれば薬剤師に相談してください。
(例えばCYP3A4で代謝されるノルバデックスは、グレープフルーツジュースの影響を受けます)
- 副作用
黄枠の副作用の欄。
見ていただくとわかるように、非常にたくさんの副作用が記載されています。
ただし起こる頻度が「0.1%未満」と記載されているものもあります。
もちろんその副作用が知ることも良いですが、重視して見てほしいのが「頻度の高い副作用」です。
こちらの添付文書には記載がありませんが、「5%以上」と記載されている項目を注意深く見てください。
ただしここの表記は、ガイドライン等と記載が違っていたり、記載のない副作用が起こることもあるので気になる症状があれば、医療者に伝えることが大切です。
「貧血ってどんな症状が出るの?」といった自覚症状について知りたい方は、「患者向医薬品ガイド」から検索してみてください。
薬物動態
緑の枠は薬物動態といって、どのように体に吸収されて広がり体から排泄されるか、といった情報が記載されています。
ここで見ていただきたいのが、最高血中濃度到達時間(Tmax)、血中消失半減期(t1/2)です。
毎日続けて使用している薬はあまり影響を受けませんが、頓服で飲むような薬に関しては、以下のように考えることができます。
最高血中濃度到達時間(Tmax):薬が一番効いている時間
消失半減期(t1/2):薬の効果が弱まる時間
一概には言えませんが、痛み止め、睡眠薬などはこの考え方を利用して調整したりします。
あくまで一つの目安として参考にしてください。
ここで、添付文書の弱点を紹介します。
それは全ての情報が網羅されているわけではないという点です。
薬Aの添付文書には記載があっても、薬Bの添付文書には記載がない相互作用があります。
また同じ薬効の薬CとDでも、Cでは禁忌になっているにも関わらずDには記載がなかったりします。
起こる副作用やその頻度も、実際とは異なる場合もあることを知っておいてください。
添付文書を確認することは大切ですが、困っていることは自己解決せず、医療者に相談することをおすすめします。
また添付文書通りに使っていて起こった副作用は、「医薬品被害救済制度」によって治療費が全額免除されることを知っておいてください。3)
まとめ
今回、お薬手帳の重要性、薬の添付文書の活用方法などを紹介してきました。
お薬手帳、添付文書は、医療者とのコミュニケーションツールとしてぜひご活用ください。
では最後にまとめです。
- お薬手帳の本来の目的は、患者さん自身が服用歴を携帯すること、医療者同士が情報共有すること
- お薬手帳を持ち歩くことはメリットしかない
- 紙の冊子になっているお薬手帳がおすすめ
- 添付文書とは、患者さんが安全に薬を使用するため、医薬品を適切に使用する際の公的文書
- 添付文書の中でも特に、禁忌・相互作用・副作用・薬物動態に着目する
- 添付文書は完璧ではないので、気になる症状などあれば医療者へ確認する
- 副作用救済制度のことを知っておく
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
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