「砂を食べてるみたいで気持ち悪い、水も苦味があって飲めない」
「においを嗅いだだけで気持ち悪くなる」
「家族が一生懸命作ってくれるけど、それがプレッシャーに感じる」
がん化学療法中、副作用でこのような悩みを抱えている方は多いと思います。
「食べられない」理由を考えると、吐き気、味覚や嗅覚の変化、口内炎や喉のはれ、神経の麻痺、不安感など、その症状は様々です。
そして困ったことに、これらが同時に起こるのが抗がん剤の特徴になります。
「味がおかしくて何を食べても不味い」と、治療への意欲も下がってしまいますよね。
そこで今回、抗がん剤の副作用で味覚障害があって食欲がないとき、
「この食材なら食べることができた!」
といったご意見を、実際に抗がん剤治療を経験した方から募集、資料としてまとめました。
具体的でとても参考になるものばかりです。
ご意見を寄せていただいた皆さま、本当にありがとうございました。
それでは「食べやすい食材」について、一緒に見ていきましょう。
味覚障害の予防
まず食材を紹介する前に、味覚障害の「予防策」を知っておきましょう。
具体的には、以下のような方法があります。
- ブクブクうがいなどを行って、できるだけ口の中を乾燥させない
- 柔らかい歯ブラシを使った歯磨きで、口の中を清潔に保つ
そして味覚障害があるときの工夫として、食材や味付けだけでなく「食器」にも気を付けてください。
何を食べても苦いと感じるとき、金属製の食器(器、スプーンなど)から、木製もしくはプラスチックのものに変えてみましょう。
これらの情報は「味覚障害の副作用対策」の記事に詳しく書いているので、そちらをご参照ください。
3つの注意点(体験談を活用する前に)
次に、体験談を活用する前に知っておいてほしいことが3つあります。
3つの注意点を理解した上で活用することで、より適切な対処ができるようになります。
- 食べ方を工夫する
- 病院から聞いた注意事項を優先する
- あくまで体験談として活用する
①食べ方を工夫する
食材について知る前に、「食べ方」を工夫してみてください。
「1日3食たべなきゃいけない」、「栄養バランスの良いものじゃないとダメ」という考えは、いったん忘れましょう。
1日3食や栄養バランスより、1日に必要なエネルギー量(カロリー)を工夫して摂ることが大切です。1)
『食べ方の工夫』2)はこちら。
②病院から聞いた注意事項を優先する
一般的にあまり知られていないかもしれませんが、がんの症状や使用している薬剤によって「避けた方がよい食材」があります。
例えば、オキサリプラチンと冷たい飲食物、イリノテカンと酸性食品、ストーマときのこ類、腎障害時のバナナなど。
その他にも注意した方がよい組み合わせがあるので、必ず受診している医療機関からの指示を優先してください。
そして気軽に他の患者さんに勧めるのも、注意が必要だということを知っておきましょう。
③あくまで体験談として活用する
ここから読み進めていただいた先に、皆さんからいただいた貴重な体験談があります。
しかし体験談とは、あくまで個人的な経験に基づく情報であることに注意してください。
エビデンス(科学的根拠)の観点から見ると、体験談は最も信頼性が低い情報に位置付けられます。
つまり再現性が高い情報ではないため、「必ずしも自分に当てはまるわけではない」という点に注意しましょう。
「丸1日まったく何も喉を通らない」、「体重がどんどん減っていく」、そんな時はご自身で対処するのではなく、病院を頼ってくださいね。3)
食べやすい食材(一覧)
お待たせしました。ここから皆さんからいただいたご意見の紹介です。
ご意見の募集は、Twitterアカウント(@Pharma_nishi)にて、2022年7月30日のツイートで募集しました。
このツイートに対して56名の方からのコメント、629回のリツイート、1,260回のいいねと、多くの反響をいただきました。
それだけ多くの人が困っている、また求められている情報だと思います。
後程まとめ資料を提示しますが、まずは皆さんからいただいたご意見の一覧を共有いたします。4)
(文字が小さく申し訳ないですが、拡大すれば読めると思います。)
ご意見の中には何度も出てくる食材もあり、その食材は多くの人に当てはまるのではないでしょうか。
また先述の通り「食べられない原因」は様々です。
今回、味覚障害・食欲がないときに食べやすい食材としてご意見を募集しましたが、吐き気止めの薬を変えることで改善することもあります。
食材だけで対応するのではなく、医療従事者と情報共有しつつ対処していくことが大切です。
「食事量や体重の日々の変化、吐き気や味覚異常の強さ」などはしっかり記録して、情報共有しましょう。
皆さんからいただいた情報はより活用しやすくするため、「主食・おかず・味付けや調理の工夫・飲み物・果物・デザート」に分類してまとめました。↓↓
食べやすい食材(まとめ)
こちらは主食、おかず、味付けや調理の工夫をまとめた資料になります。
重複しているものは一つにまとめましたが、印象として最も多く出てきた食材は「冷たい麺類」です。
うどん、そば、冷やし中華、冷麺など、においが控えめで少ない咀嚼でツルっと飲み込めるところが、食べすいポイントではないでしょうか。
次に多かったのが「トマト料理」です。
サラダでそのまま食べたり、ミネストローネ、ミートソースなどトマトを利用して味付けした料理が、多くの方から支持されていました。
その他、いなり寿司、冷たい茶碗蒸し、ポテトサラダなども人気ですね。
味付けとしては、濃い目の味付け、ポン酢でさっぱり、といったご意見が多かったです。
個人的に、シリアル、inゼリーなどは手軽に用意できて量も調節できるのでおすすめです。
続いて飲み物、果物、デザート編です。
飲み物はさっぱりしたドリンクが人気でした。
炭酸飲料は飲みやすいと思いますが、糖分も多く入っているものが多いので、血糖値が高い人は注意してください。
また病院で「水分をたくさん摂るように」と言われている方も多いと思いますが、「水やお茶が不味くて飲めない」といったご意見も多いです。
そんな時は炭酸水や、味の薄いドリンクが良いかもしれません。
果物やアイスに関しては「他の食べ物はダメだったけど、これだけは食べられた」という話をよく聞きます。
これらは用意する手間がかからず、食べたいときに食べられるのが良いですね。
アイスの中でも「クーリッシュ」は横になったまま食べられて、残った分は保存ができるのでおすすめです。
まとめ
今回の記事はいかがだったでしょうか。
皆さんからいただいたご意見を、活用しやすい形に編集して紹介させていただきました。
一つひとつのご意見の中に、がん治療を乗り越えるための知恵や工夫があり、きっと多くの方に参考にしていただけると思います。
またこれらの情報はがん治療中のご本人だけでなく、ご家族など料理を作る人とぜひ共有してください。
料理には「元気になってほしい」、「喜んでほしい」、「支えになりたい」という思いが込められています。
食事が原因で家族との関係性を悪化させないで欲しい。そう強く思います。
では、今回のまとめです。
抗がん剤の副作用中でも「食べやすい食材」
- 味覚障害は予防をしっかり行うことが大切
- 少量ずつ小分けにして食べるなど食べ方を工夫する
- 栄養バランスより水分とエネルギー量(カロリー)の確保を
- 病院から聞いた注意事項を優先する
- 体験談の特徴を理解してうまく活用する
- 冷たい麺類、トマト料理、さっぱりした味付けが食べやすい
- 水が飲みにくいときは炭酸飲料などが飲みやすい
- アイスや果物は他の食材がダメなときも食べやすい
- 食べやすい食材リストを食べる人、作る人で共有するのがおすすめ
参考資料:
1)日本静脈経腸栄養学会「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」
静脈経腸栄養ガイドライン (jcqhc.or.jp)
2)がんと食事:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
3)CTCAEv5.0 JCOG版 「食欲不振」
CTCAEv5J_20220301_v25.pdf (jcog.jp)
4)Twitter @Pharma_nishi 2022.7.30 投稿
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 / 薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
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