抗がん剤の副作用「伝え方のコツ」 part②

この記事は、がん化学療法中に副作用で困っている方に向けて、その症状を医師へ伝えるためのコツを紹介しています。

あなたは診察室で、抗がん剤の副作用のことを医師にうまく伝えられず、困った経験はないですか?

「困っている症状のことをうまく伝えられない」

「一生懸命に伝えているのに何もしてくれない」

そんなことが続くと、伝えにくくなってしまいますよね。

しかし伝えなかったことで副作用の対策が遅れ、がん治療が続けられなくなってしまうこともあります。

そこで、しっかり副作用対策を講じてもらうための「伝え方の工夫」をご紹介します。

前回は伝え方の概要についてお話しましたが、今回はもっと具体的に、

「CTCAE」を活用した伝え方について、実際の会話を例にしながらお伝えしたいと思います。

今困っている方、困っている人を支えたい方、きっと力になれるので最後まで読んでみてください。

(前回の記事はこちらからご覧になれます。↓ )

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目次

はじめに

まず副作用から身を守るために「一番大切なこと」って何だと思いますか?

僕は「医療者(特に医師)とのコミュニケーション」だと思います。

コミュニケーションがうまくいかないと、副作用対策が適切に行われません。

この記事は、長年にわたりがん薬物療法を支援してきた「薬剤師」が書いています。

なぜ薬剤師が医師とのコミュニケーションについて書いているのか?

それは、薬剤師は医師に対して、頻繁にお薬の変更依頼を行っているからです。

薬剤師法という法律に、「疑義照会の実施」が義務づけられています。1)

また「がん専門薬剤師」という専門資格の取得でも、「50名以上の患者さんへの薬学的介入(抗がん剤の変更や減量、副作用対策の提案などを医師に行うこと)」が必須要件になっています。

つまり薬剤師は、職能として医師が処方した薬剤への介入が求められているのです。

では、実際にその介入は、どのぐらいの頻度で行われ、どの程度が医師から採用されているのでしょうか?

以前に行った調査では、一人の薬剤師が医師へ処方提案した回数は年間96回、そのうち86%が医師から採用されている、という結果が出ました。

にしかわが院内で行った調査結果

提案した内容の大半が、依頼した通りに変更されていた、と言えます。

しかし、最初からうまくいったわけではありません。

そこには「伝え方のスキル」が大きく影響していると実感しています。

僕自身が医師と頻繁にコミュニケーションを取ってきた中で学んだ「伝え方のコツ」を、伝授したいと思います。

にしかわ

新人の頃、提案を採用してもらえないばかりか、よく怒られていたことは秘密です…。

CTCAEとは何か?

うまく伝えられない理由には、「診察時間が短い」、「症状をうまく言葉で表現できない」、「我慢してしまう」など色々あると思います。

今回は、

「症状をうまく言葉で表現できない」

「がんばって伝えても何もしてくれない」

といった悩みに着目して、解決策を紹介していきたいと思います。

まず「医療者が理解しやすい言葉」があるってご存じでしたか?

これを活用する方法こそが、今回お伝えしたい「伝え方のコツ」です。

例えば、「抗がん剤投与3日目に食事が摂れないほどの吐き気があった」という表現。

これは「Day3 悪心 Grade2」といった形で電子カルテに記録される事が多いと思います。

この表現のもとになっているのが「CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events:有害事象共通用語規律)」というものです。2)

CTCAEは米国国立がん研究所によって作成された、主にがんの治療や使用する薬剤による有害事象(副作用など)を評価するための評価基準で、世界共通で用いられています。

でもこんな難しい定義を覚える必要はありません。

大切なのは、うまく伝えるためのツールとして活用することです。

僕は実際に、患者さんから聞いた症状を医師へ伝えるとき、この表現を活用して処方提案していました。

「〇〇さん、グレード2の悪心が続いています。△△を減量して□□を追加してはいかがでしょうか?」

と、いった具合です。

逆に言えば、CTCAEから大きく離れた表現方法は伝わりにくいとも言えます。

ここまで読んでいただくと「副作用がつらくて伝え方の工夫する余裕がない、医療者がうまく聞き出してほしい」と、感じるかもしれません。

その通りだと思います。

しかし残念ながら、全ての医療者がうまく症状を聞き出すためのコミュニケーション力を備えている訳ではありません。

自分自身を副作用から守るために、CTCAEという共通言語を上手に活用することをおすすめします。

にしかわ

具体的にどのような表現で伝えれば良いか、一緒に例を見ていきましょう。

CTCAE活用例

にしかわ

ここから事例を紹介します。
皆さんも一緒に「どう伝えたら良いか?」
考えてみてください。

ひよこさん🐤は吐き気で困っています。実はddAC療法で2コース目に入ってから食欲が落ちて、2日目は何も食べられませんでした。3日目から少しずつ食べられるようになりましたが、いつもより食べる量が少なく、2週間のうちに5kg痩せてしまいました。楽しみにしていた友人とのランチの約束もキャンセルしました。吐き気のせいで元気がなく、これから治療が続けられるか不安です。

次の診察時、ひよこさんは医師にどのように伝えれば良いのでしょうか?

ひよこさん

吐き気があってつらいです。
友人との食事もキャンセルしました。
これから治療が続けられるか不安です。

この伝え方で良いところは、実際に困っていることを遠慮なく伝えられている点です。

しかし、吐き気が「いつ、どの程度」といった具体的な情報が伝えられていません。

「どの程度」を医師が認識しやすく伝えるツールこそが「CTCAE」です。

ではCTCAEの「悪心(吐き気)」の項目は、実際どのように記載されているでしょうか?

Grade1Grade2Grade3
悪心摂食習慣に影響のな
い食欲低下
顕著な体重減少, 脱
水または栄養失調を
伴わない経口摂取量
の減少
カロリーや水分の経
口摂取が不十分; 経
管栄養/TPN/入院を
要する
CTCAE v5.0

このように吐き気の強さがGrade(グレード)として分類されています。

ここで重要なキーワードが、「体重減少」、「摂取量の低下」です。

これを活用して時系列で伝えてみると以下のようになります。

ひよこさん

前回、抗がん剤を点滴した日から吐き気が出て、2日目には何も食べられませんでした。
3日目から少しは食べられましたが、ここ2週間で1kg痩せました。
このまま治療を続けるのは不安なので、何か対策していただけませんか?

ポイントは、時系列で伝えられている点、CTCAEのGrade2と認識できるように伝えられている点です。

時系列で伝えることで、その吐き気が「早発性」なのか「遅発性」が判断され、使用される吐き気止めが変わってきます。

また「対策していただけますか?」と伝えることもとても重要です

このように伝えることができれば、きっと適切に副作用対策が行われるでしょう。

繰り返しになりますが、困っている症状は「いつ、どの程度」を意識して伝えてください。

にしかわ

「この症状が副作用はどうかわからない」と思って、伝えるのをやめてしまう方がいます。
でも副作用かどうかは医療者が判断するものです。
困っている症状は遠慮せず、すべて伝えてくださいね。

またCTCAEを活用する際に知っておいてほしい事があります。

大切なことなので、覚えておいてくださいね。

  • 一般的にGrade2以上であれば、がん治療薬の減量・休薬を検討する
  • Grade1でも副作用によっては中止した方が良い場合がある(間質性肺炎など)

どんな症状が出たら受診した方が良いか、事前に主治医の先生に確認しておきましょう。

まとめ

今回は、僕自身が薬剤師として学んできた「副作用を伝えるスキル」について紹介しました。

悪心(吐き気)を例にお伝えしましたが、他の症状も同様にCTCAEが活用できます。

CTCAEの一覧表はこちらからご参照ください。
(http://www.jcog.jp/doctor/tool/CTCAEv5J_20220901_v25_1.pdf)

パソコンでご覧になられる方は、Windowsでは「Ctrl+F」、Macでは「command+F」を入力することで、キーワード(悪心、下痢など)で検索可能です。

少しでも適切な副作用対策が提供され、副作用で悩む人が減ることを祈っています。

抗がん剤の副作用「伝え方のコツ」part② まとめ

  • 副作用から身を守るために一番大切なことは医療者とのコミュニケーション
  • 困っている症状を医療者にうまく伝えるツールしてCTCAEを活用する
  • 症状を伝えるときは「いつ、どの程度」を意識する
  • 生活に困っていて対策してほしい事をはっきり伝える
  • 一般的にGrade2以上でがん治療薬の減量・休薬を検討
  • Grade1でも中止すべき副作用がある
  • どのような症状が出たら受診すべきか事前に確認しておく
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にしかわ

この記事を書いた人

薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter

にしかわ

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