「FN」という副作用をご存知でしょうか?
FNとは「発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia)」の略称で、がん薬物療法によって好中球が減少して発熱が生じた状態をいいます。
米国では、FNによって入院した4万人以上のがん患者さんのうち、9.5%が入院中に亡くなったと報告されています。1)
また好中球減少症によって、予定していた抗がん薬治療の延期や減量が必要になり、治療効果が弱まってしまうことも懸念されます。
このようなリスクの高い副作用「FN」ですが、なぜ起こるのでしょうか?
そして私たちができる対策は何なのでしょうか?
2023年10月にWeb公開された、最新版のG-CSF適正使用ガイドライン2)の内容と合わせて見ていきたいと思います。
関連記事「骨髄抑制」を読んでいただくと、より理解が深まります。
FNとは?
FNとは、抗がん薬の副作用による好中球減少、これに発熱が重なった危険な状態をいいます。
もう少し詳しく見てみると、
好中球数が500/μL未満、あるいは1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合をFNと定義する。
発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第2版
このようにガイドラインに記載されています。3)
がん薬物療法では、がん細胞のような細胞分裂の早い細胞をターゲットに攻撃します。
骨髄では血液が活発につくられているため、その機能が抑えられることで好中球減少が起こるのです。
好中球は自然免疫といって、細菌などから身を守る作用があるので、これが少なくなると感染症に罹患・重症化しやすくなります。
FNにおける発熱は、様々な感染症が原因と考えられていますが、その感染部位や原因菌は10~20%しかわかりません。
そのため診断時に時間をかけて原因を探るようなことはせず、経験的によく効く抗菌薬を使用します。
(エンピリックセラピーといいます)
またFNが起こりやすい人の特徴(リスク因子)は、以下のようなことが知られています。
自分でできるFN対策
ここからFNの対策について見ていきましょう。
FNの原因は主に感染症です。
そのため「感染対策」が有効になります。
具体的には、以下のとおり。
あとは規則正しい生活習慣を心がけ、しっかり睡眠を取るようにしましょう。
また「好中球を増やす食べ物はありませんか?」といった質問をよく受けますが、残念ながらそのような食べ物は知られていません。
逆に言えば、「これを食べれば免疫力アップ!!」
のような宣伝がされている商品や治療は、信用しない方がよいでしょう。
「免疫力」という医療用語はありません。
このような表記があれば警戒しましょう。
また好中球が最も減少しやすい時期は、点滴して「1~2週間前後」と考えられています。
好中球が減少していることは自覚できないため、「少し落ち着いた頃」に感染リスクが高くなっていることに注意してください。
また好中球が正常でも、抗がん薬治療中は、骨髄抑制 、吐き気止め等のステロイド薬の使用 、がんによる通過障害(消化器や尿路など) 、皮膚や粘膜障害などによって、感染リスクが高くなっています。
感染症以外に発熱する原因もあり、がんに関連する発熱について下記画像も参考にしてください。
G-CSF製剤とは?
好中球が減少すると、感染症やFNのリスクが上昇し、抗がん薬を中止・減量することがあります。
これを予防、もしくは治療するのが「G-CSF」というお薬です。
G-CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー形成刺激因子)とは、骨髄で好中球の分化を促す物質で、これをお薬として利用します。
G-CSFの予防的な使用に関して、以前のガイドラインでは「FN発症率20%以上のレジメンに推奨」と記載されていましたが、今回のガイドラインからは「がん種ごと個別のエビデンスを考慮して検討」と記載が変更されました。2)
予防的にG-CSFを使用(一次予防)が推奨される、がん種と推奨度は以下のとおりです。
がん種 | レジメン | 推奨度/エビデンスの強さ |
乳がん | ・TC療法 ・FEC100療法 ・DTX100療法 | 強く推奨/強 |
進行非小細胞肺がん | DTX+ラムシルマブ療法 | 弱く推奨/非常に弱い |
前立腺がん | カバジタキセル | 弱く推奨/弱 |
古典的ホジキンリンパ腫 | BV‒AVD療法 | 弱く推奨/非常に弱い |
B細胞リンパ腫 | 高リスク患者 | 弱く推奨/非常に弱い |
T/NK細胞リンパ腫 および再発・難治性リンパ腫 | ・BV‒CHP療法 ・RT‒2/3DeVIC療法 ・SMILE療法 | 弱く推奨/非常に弱い |
成人急性リンパ性白血病 | 記載なし | 弱く推奨/中 |
好中球減少症が持続する 骨髄異形成症候群 | 記載なし | 弱く推奨/弱 |
G-CSF製剤には現在、グラン®、ノイトロジン®、ジーラスタ®がありますが、予防的に使えるのはジーラスタ®のみです。
ジーラスタ®はPEG化という技術で、体内で分解されにくくなっているため、1回の使用で長時間の効果が期待できます。
ちなみに「G-lasting(持続的)」がジーラスタの語源です。
また乳がんや尿路上皮がん等では、G-CSF製剤を使用することで投与間隔を短縮する「dose‒dense 療法」が行われています。
投与間隔を短縮して治療強度を高めることで、その抗がん薬の治療効果を高めることが可能になりました。5)
例えば、乳がんの術後補助化学療法では、ddAC療法、ddPTX療法が主流になってきています。
またジーラスタ®は、抗がん薬を投与して24時間以上あけることが推奨されています。
これは抗がん薬の効果によって、G-CSFの効果が減弱するのを防ぐためです。
加えて、G-CSF製剤は「骨痛」といわれる腰や肩などの痛みが、3~4日後に起こりやすいので、ロキソプロフェンなどの鎮痛薬を事前にもらっておくと良いでしょう。6)
病院で受けるFN治療
「発熱したら受診」が基本的に勧められます。
その理由は、好中球が減少していることは自覚できず、好中球減少時は普段問題にならないような病原微生物に感染するリスクがあるからです。
(日和見感染症といいます)
では受診してFNと診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか?
細かいことは省略しますが、リスクを評価して(MASCCスコア)、FNの原因菌に多いと考えられている細菌(緑膿菌、腸内細菌、グラム陽性菌)に有効な抗菌薬を使用。
そして3~4日後、治療経過を評価して、適宜治療を変更するといった流れです。
詳細は、以下ガイドラインの内容をご確認ください。
まとめ
今回、各ガイドラインの内容をもとに、FNや、がん薬物療法中の発熱についてまとめました。
少し難しいところもあったかと思いますが、「抗がん薬治療中の発熱」がなぜ危険なのか、適切な対応がなぜ必要なのか、知っていただけたら嬉しいです。
そして、発熱時には自己判断せず、病院へ相談してください。
皆さまが、安心して質の高い薬物療法が受けられることを、心より願っております。
FN(発熱性好中球減少症)まとめ
- FNとは、好中球減少と発熱が重なった状態
- 抗がん薬の作用で骨髄の機能が抑制されることで、好中球が減少する
- 発熱の原因は主に感染症なので、感染対策が予防になる
- 好中球が最も減少しやすい時期は、抗がん薬投与1~2週間後
- 「免疫力を上げる食材」は知られていない
- G-CSFでFNを予防して治療強度を上げられる
- G-CSFで骨痛が起こりやすいので、鎮痛薬をもらっておく
- 発熱時の対応は自己判断せず、事前に病院に確認しておく
参考文献:
1 ) Kuderer, Nicole M et al. “Mortality, morbidity, and cost associated with febrile neutropenia in adult cancer patients.” Cancer vol. 106,10 (2006): 2258-66. doi:10.1002/cncr.21847
2 ) 日本癌治療学会 編, G-CSF 適正使用ガイドライン第2版, 金原出版, (2022)
3 ) 日本臨床腫瘍学会 編, 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン,改定第2版,南江堂(2017)
4 ) パフォーマンスステータス:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
5 ) 髙橋萌々子,近藤千紘,高野利実「G-CSF製剤の歴史」
6 ) ジーラスタ® 添付文書(重要な基本的注意8.2)
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師などを取得 / 緩和ケアチーム / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在、在宅医療に従事しながら株式会社Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / X(旧Twitter)
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