皆さんはサプリメントを使用していますか?
もしくは検討中でしょうか?
がん患者さんの2人に1人が補完代替療法を行い、その中でも多くの方がサプリメントを利用していると言われています。1)
多くの方から支持される人気のサプリメントですが、実は「安全ではない」ということをご存じでしょうか?
例えば、治療中の薬と相互作用を起こして重い副作用が起こった事例、サプリメント自体が副作用を起こした事例など多くが報告されています。2)
抗がん剤当日、「副作用が軽くなるように」とお守りのように欠かさず服用していた健康食品がアレルギー症状を起こし、抗がん剤治療がしばらく中止された、といった例も実際にありました。
このようにサプリメント、健康食品といった言葉のイメージからは想像しにくい「危険性」があるのです。
それでは病院でもらうお薬以外、何も使わない方が良いのでしょうか?
今回、サプリメントを上手に利用するための調べ方、情報の活用方法についてご紹介します。
がん患者さんをサポートされているご家族の方も、ぜひご覧ください。
がん専門薬剤師、サプリメントアドバイザーのにしかわが解説します。
サプリメントとは何か?
「サプリメント」と聞くと、カプセルや錠剤といった形状から、「薬」のようなイメージがあると思います。
でもサプリメントはいくら薬のような形をしていても、それは「食品」に分類されます。
そのため「病気が治る」と広告してはいけない決まりになっています。(薬機法 第66条)
また「健康食品」や「サプリメント」といった名称には、正確な定義がありません。
行政がその機能性を認めて定義している食品には、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、特別用途食品があります。
つまりここから外れたサプリメントは、その機能を表示することも認められていないのです。
では、がん治療の中でサプリメントは、どのように位置づけられているのでしょうか?
厚生労働省が運営している「統合医療に係る情報発信等推進事業 eJIM(イージム)」というものがあります。3)
(言葉の定義:統合医療>補完代替療法>健康食品>サプリメント)
そこには、サプリメントを含む補完代替療法について、以下のように記載されています。
- 症状の管理
補完療法のなかにはがんの症状や治療の副作用の対処に有効であるという、十分な科学的根拠(エビデンス)を持つものがあります。それ以外の補完療法ではエビデンスが希薄です。 - がんの治療
現時点では、補完療法にがんの治癒や寛解をもたらす効果があるという有力なエビデンスはありません。 - がんの予防
2012年に行われた研究では、高齢の男性がマルチビタミン・ミネラルのサプリメントを摂取することによって、がんのリスクを若干低下できる可能性があることが示されました。がんの予防については、それ以外の補完療法が有用であることは示されていません。
ここで着目していただきたいのが、「症状に対処できる有効な方法がある」、「がんの治療に対するエビデンスは現時点では存在しない」という点です。
がんを治す魔法の食品は知られていませんが、症状を楽にする方法はある、という解釈になります。
健康食品や民間療法は、やっても全く意味がないわけでも、これをやれば治るわけでもないことを知っておいてください。
医療者の認識
しかしながら、これまで多くの患者さんのお話をうかがっていると、
「主治医の先生から、どんなサプリも民間療法もやったらダメと言われた」
といった意見を耳にします。
それに対して「納得できない」と感じている方は多いのではないでしょうか。
「ダメ」と言われる理由は様々かと思いますが、医師自身が補完代替療法についてあまり詳しくないという可能性も考えられます。
文部科学省が定める「医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)」において、補完代替療法は医師として学ぶべき項目に含まれていません。
また少し前の調査になりますが、751名の医師に補完代替療法について「知識を持っているか」と聞いたところ、75~90%の医師が「知識がない」と回答しています。また82%ががんに使用される健康食品には効果がないと考え、84%が相互作用を懸念している、との調査結果もあります。4)
このようにあまり補完代替療法に馴染みのない中で、現行のがん治療の有効性や補完代替療法の安全性など、害と益のバランスを考慮したとき「とりあえずNG」、となってしまうのではないでしょうか。
薬剤師も同様で、薬剤との相互作用については詳しいかもしれませんが、それ自体の有効性・安全性について説明できる人は少ないと思います。
ただし「相談しても意味がない」と考えるのは誤解です。
それは医師や薬剤師などの医療者は、「調べ方」を知っているからです。
そのサプリメントがどのような効果が期待できるのか、安全性はどうかなど、エビデンスの質を評価して活用するための術を知っています。
短い診察時間の中で医師に聞くより、比較的ゆっくり会話ができる薬剤師へ相談すると良いかもしれません。
また近年では、補完代替療法の質の高いエビデンスが徐々に蓄積されてきています。5)
ぜひお気軽に薬剤師へ相談してください♪
調べ方
ではサプリメントを含む補完代替療法の「調べ方」について、2つの方法をご紹介します。
1.「eJIM」を活用した調べ方
これまで何度か出てきた「eJIM」ですが、厚生労働省が運営しているため信頼性が高く、あらゆる補完代替療法に関する情報が網羅的に掲載されています。
リンクはこちらになります。
⇒厚生労働省eJIM | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト (ncgg.go.jp)
例えば「亜鉛」について調べたいときの実際の活用手順は、以下のようになります。
①トップページ画面右上の「menu」をタップ
(PCの場合は画面右上の検索窓へ)
②検索窓に知りたい情報を入力して検索
③信頼性の高い情報源が表示されるため、気になるページを閲覧
または、直接トップページから情報を見る方法もあります。
①トップページ中央「海外の情報」のうち「サプリメント・ビタミン・ミネラル」をタップ
②知りたいサプリメントをタップして確認
2.「健康食品の安全性・有効性情報」を活用した調べ方
次に「国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(栄養研)」が運営している「健康食品の安全性・有効性情報」の活用方法についてご紹介します。
こちらも公的機関が運営していて信頼性が高く、健康食品に特化した情報が掲載されています。
一つの成分についてかなり詳細に記載されていたり、アクティブに情報が更新され最新のニュースなどが閲覧できる点が特徴です。(あとスマホではやや見にくいのも特徴です…)
リンクはこちらです。
⇒「健康食品」の安全性・有効性情報〔国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所〕 (nibiohn.go.jp)
実際の活用手順としては、以下のようになります。
①トップメニュー右下「素材情報テータベース」をタップ
②知りたい素材をタップ
③正しく理解するための注意事項を読み「同意する」をタップ
④「すべての情報を表示」をタップ、情報を確認
活用方法
2つの調べ方についてご紹介しましたが、実際に調べるときは、
「家族や知人から勧められたとき」が一番多いと思います。
勧められてサプリメントを始める場合も、気乗りせず断る場合でも、できればやってほしいことがあります。
まず、勧めてくれたことに感謝の気持ちを伝えてほしいと思います。
少しでもあなたの力になりたいと思って勧めてくれているはずです。
実際にそれを使用するかは別にして、相手の気持ちを真っすぐ受け取り、感謝の気持ちを伝えてください。
次に、信頼できる情報源だけを共有することをおすすめします。
前述の「調べ方」を参考にしてください。
本ブログもそのように活用していただくことを目的に書いています。
ポイントは信頼できる情報源だけを見ること、それを一方的に伝えるのではなく同じ情報を見て、同じ立場で話し合うことです。
最後に、これは必ずやってほしいことです。
事前に医療従事者に伝えて情報共有してください。
主治医の先生、看護師さん、薬剤師さん、管理栄養士さん、病院にはその他多くの医療従事者がサポートしてくれているはずです。
相互作用、副作用、抗がん剤の効果減弱など、様々なリスクから身を守るため、
必ず医療従事者の誰かに伝えて、常に情報共有しておいてください。
「病院で貰っている薬以外のことは聞いてはいけない」と思っている方も多いようですが、そのような事はないので遠慮なく聞いてくださいね。
まとめ
ここまでサプリメントをはじめとする補完代替療法の「調べ方」、「活用方法」について紹介してきました。
これは個人的な考えですが、サプリメントを利用したいと思う本質は「不安」だと思います。
強い不安がベースにあると、調べれば調べるほど不安が強くなったり、怪しい医療でも気になってしまいがちです。
そんな時、今回ご紹介した信頼できる情報源だけを見て、あとは医療者と相談してください。
医療者としっかり相談して、納得のいく判断ができれば、それは正しい判断です。
この記事をご覧になり、少しでも不安が解消されることを祈っています。
最後に、今回紹介しきれなかった参考にしてほしい情報源を載せておきます。
良ければ参考にしてください。
- 化学同人 大野智 著「民間慮法は本当に効くのか」補完代替医療に惑わされないヘルスリテラシー
民間療法は本当に「効く」のか – 株式会社 化学同人 (kagakudojin.co.jp) - 厚生労働省「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」
GB 3rd edition final.ppt (ncgg.go.jp) - 消費者庁「機能性表示食品って何?」
150810_1.pdf (caa.go.jp) - 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」
161125syouhi3.pdf (nibiohn.go.j - 日本緩和医療学会「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版」
cam01.pdf (jspm.ne.jp)
大野智先生の書籍は、患者さんの目線でわかりやすく解説されていておすすめです。
参考文献:
1)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 J-HOPE2016
j_hope2016.pdf (hpcj.org)
2)[健康食品の安全性と有効性に関するHFNetデータの分析から得られた健康食品および医薬品の併用に関連する注目すべき有害事象] – PubMed (nih.gov)
3)厚生労働省eJIM | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト (ncgg.go.jp)
4)Perceptions and attitudes of clinical oncologists on complementary and alternative medicine: a nationwide survey in Japan – PubMed (nih.gov)
5)厚生労働省eJIM | がん | コクラン・レビュー・サマリー | 「統合医療」情報発信サイト (ncgg.go.jp)
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
コメント