突然ですが、皆さんはインターネットやテレビなどで、「これ本当??」と疑いたくなるような情報を目にしたことはありませんか?
\ これさえ飲めば、どれだけ食べても痩せる!! /
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例をあげるとキリがないほど、玉石混交の医療情報であふれています。
私たちはこの医療情報の海の中で、何を道標に「信頼できる情報」を見つけたら良いのでしょうか?
今回、医師でありエビデンスの考え方や活用方法について情報発信されている、まきし先生に記事の執筆をお願いしました。
医師の立場から、「信頼できる医学とエビデンス」をテーマにお話いただきます。
まきし先生、よろしくお願いします!
任せてください!
はじめに
現在、医療に関する情報は手軽に手に入れることができます。
それと同時に正しい情報を見分けることが難しい時代でもあります。
正しい情報を見分けるポイントは何でしょうか?
ここでキーワードになるのが『エビデンス (evidence)』です。
エビデンスとは『証拠』のことですが、医学の文脈では『科学的な根拠』のことを指します。
これは思い込みや憶測を排し、適切な研究によって証明された医学的な事実であることです。
研究で正しさを証明するとは、どのようなことでしょうか?
理解するために、いくつかの例を挙げて考えてみましょう!
「Aという薬」はかぜに効くか?
Aという薬を飲んだから、風邪が治った!
と、あなたの友人が言いました。
あなたはこう考えるかもしれません。
友人の実体験だから、Aという薬は風邪に効くんだろうなぁ。
あるいは、こう考えるかもしれません。
風邪は自然に治るものだし、Aが効いたわけではないかも。
ー 結局、Aという薬は風邪に効くのでしょうか?
この問題を考えるときに大事なのは、「Aという薬が風邪に効くとは、どのようなことを指すのか」です。
たとえば次のような効果が確認できれば、Aという薬は風邪に効くと言えるかもしれません。
『Aという薬を飲んだ場合、飲まなかった場合と比べて風邪の症状が2日早く治った。』
では実際に確認してみましょう!
グループ1:
風邪をひいたときにAという薬を飲む
グループ2:
風邪をひいたときにAという薬を飲まない
それぞれのグループで100人ずつの参加者が集まり、それぞれの参加者が風邪の症状が治るまでの期間を測りました。
その結果、グループ1は平均 7.5日、グループ2は平均7.6日で風邪の症状が治りました。
この結果を見て、あなたはこう考えるでしょう。
グループ1の方が「0.1日」はやく症状が治っているけど、たまたま生じた誤差じゃないかな。だからAという薬を飲んでも風邪は早く治らない。
0.1日の差が大きいと考えるかは個人の感覚によりますが、多くの人にとってAという薬は風邪に効果がない、と研究で確認されたと感じられるでしょう。
「心臓の動きを強くする薬」は心不全に効果があるのか?
次のお話は、実際に医学の歴史であった、『思い込み』がくつがえされた例です。
心不全とは心臓の機能が低下することで、通常の身体活動ができなくなる病気です。
ジギタリスというお薬があり、これは心臓の動きを強化する強心薬と呼ばれるものです。
この薬は心不全に効果がありそうだと考えられました。
そして、心不全の患者さんにジギタリスが投与されました。
しかし実際に多くの症例でデータをとってみると、ジギタリスを投与しても心不全による死亡率を改善する効果は認められませんでした。
もう一つ、β(ベータ)遮断薬という薬があります。
これは心臓の機能を抑制する薬です。心不全で心臓の機能が低下しているのに、β遮断薬を使ったら余計に心機能が悪くなるのではないか?
しかし実際に多くの症例から得られたデータは、これまでの思い込みと逆の結果を示していました。
β遮断薬を投与された心不全の人々は、そうではない人々と比較して死亡率が低く、入院する確率も低かったのです。
この研究は「心不全の患者にβ遮断薬を投与すると生存期間を伸ばすことができる」というエビデンスを示し、β遮断薬は心不全に対する標準治療の一つになっています。
「効きそう」と「実際に効く」は全く違うものなんですね!
ジギタリスは効果がないのか?
先ほどの例をみると、ジギタリスは効果がない薬のように思えます。
実際に心不全に対してジギタリスを投与しても、死亡率は改善しないというエビデンスが示されました。
ジギタリスを内服している人を見ると、あなたはこう考えるかもしれません。
ジギタリスは効果がない薬なのに、なぜ飲んでいるんだろう?
またジギタリスを処方する医師に対して、疑いの目を向けるかもしれません。
しかしジギタリスに関して、別のエビデンスがあります。
『心房細動という不整脈の病気に対してジギタリスを投与すると、再入院を要する確率が低下する』ことが研究によって示されています。
入院は多くの人が避けたいことですが、ジギタリスはその入院の必要性を下げることで、生活の質を向上させる薬です。
つまり、ジギタリスは心不全による死亡率を下げる薬ではないが、心房細動による入院率を下げる薬である、ということができます。
これは一つの治療について、複数の観点からのエビデンスが存在していることを示しています。
血液型がB型だと落ち着きがない?
最後に、身近な例をあげてエビデンスを考えてみましょう。
幼稚園に通う4人の子どもを観察する実験を見てみます。
4人の血液型はそれぞれA型、B型、AB型、O型です。子どもたちはおもちゃで遊んでいます。
そこでお母さんが、おもちゃを片付けるように声をかけます。
A型の子はすぐにおもちゃを片付けました。
O型、AB型の子どもたちが次におもちゃを片付けました。
B型の子は最後までぐずぐず言って、おもちゃを片付けようとしませんでした。
この実験を見たあなたは、こう考えるかもしれません。
やっぱりB型の子は落ち着きがなく、親の言うことをきかないことが実験でも確認された!
ー 本当にそうでしょうか?
それぞれの血液型の子どもは1人ずつしか観察されていません。
これだと血液型の影響なのか、4人の個性によるもので血液型は関係ないのか、判別することはできません。
ではそれぞれの血液型の子どもを100人ずつ観察し、おなじ実験をしたらどうでしょうか?
実際に見てみると、おもちゃを片付けるまでの時間と血液型は関係ありませんでした。
特定の関連性や効果を確認するためには、1人のような少ない参加者ではなく、多くの参加者からデータをとる必要があります。
多くの症例からデータを集めて確認された事実が、エビデンスのある事実です。
同じような例は個人の体験談にもみられます。
自分が効果を実感した治療は、すべての人に効果があるように感じられます。
しかしその効果を証明するためには、同じ治療を受けた人と受けなかった人を、どちらも何人か集めてデータをとらなければいけません。
余談ですが、血液型によって性格に一定の傾向があることを医学的に示したエビデンスは存在しません。
さいごに
いかがだったでしょうか?
エビデンスの考え方のエッセンスについて紹介させていただきました。
もし参考になったと感じた方は、SNSなどで共有していただけると嬉しいです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
次回は、エビデンスに基づいた治療を受けるためにどうすれば良いかについて、お話させていただきます。
まきし先生、ありがとうごさいました。
まきし先生が書かれている「Save book」の記事もあわせてご参照ください。
この記事を書いた人
眞喜志 剛(まきし ごう)
聖隷三方原病院・救急科 医長 兼臨床研修センター長
日本救急医学会認定専門医、日本集中治療医学会認定専門医
エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるように伝えるメディア『Save Book』を運営
Twitter:マキシ|ドクターヘリ(@maxy89gt)さん / Twitter
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