あなたは民間療法・健康食品と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
「気軽に始められる」
「薬ではないから安全」
「免疫力が上がってがんを治せるかもしれない」
といったポジティブなイメージがあるかもしれません。
もしくは逆に、
「効かない」
「トンデモ医療かもしれない」
「病院で相談しにくい」
などネガティブなイメージがあるかもしれません。
もしかしたら、愛用しているサプリメントを医療者から頭ごなしに否定された経験があるかもしれませんし、
「抗がん剤は免疫力が下がって危険」と、民間療法で中止を勧められた経験があるかもしれません。
私たちは「民間療法・健康食品」をどのように考え、利用するか判断すれば良いのでしょうか?
今回、判断するための材料をご紹介し、最後に私見を述べさせていただきました。
難しいことは書いていません。
気楽な気持ちで読んでみてください。
「家族からの勧め」で健康食品を始められる方はとても多いです。
ぜひご家族の方もご覧ください。
補完代替療法とは?
民間療法や健康食品は、「医療」の中でどのような位置づけにあるか知っていますか?
厚生労働省が運営している『eJIM』には、以下のように定義されています。
「統合医療」は、近代西洋医学と相補(補完)代替療法や伝統医学等とを組み合わせて行う療法であり、多種多様なものが存在します。(中略)
出典:厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』eJIMより
相補(補完)代替療法については、「一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など」と定義しています。
簡単に言うと、「統合医療=近代西洋医学(病院で受けるような医療)+補完代替療法(民間療法・健康食品など)」といった感じになります。
そして補完代替療法は、「従来の通常医療と見なされていない」とも記載されています。
図で表すと、以下のようになっています。
補完代替医療法(グレーの部分)にはとても多くのバリエーションがありますね。
さて、ここで大切なことをお伝えします。
補完代替療法は、病気を治すことを目的としていません。
更に言えば、病気を治す効果が示されたものは現時点で存在しないのです。
補完代替療法は文字のごとく、治療の補完、健康な人の健康維持に使われるのが目的です。
「免疫力アップでがんが治る」といった病気の治療をうたっているものは薬機法という法律違反になります。1)
「病気が治る」、「病気に効く」と言っていいものは医薬品など厚生労働省が承認したものに限定されるからです。
これは近代西洋医学が正しくて、その他の医療行為は間違っているということではありません。
医薬品は臨床試験という厳格な管理のもと、有効性や安全性が検証され、統計学による裏付けによりその治療の質が保証されているのです。
ちなみに現在、1つの薬を作るには、10年以上の期間、1,700億円の費用が必要であり、ひとつの成分が薬になる確率は25,000分の1と言われています。2)
それだけ厳しい条件をクリアしたものだけが薬として「病気を治す」と言えるのです。
逆に言えば、「がんに効く」とうたっている補完代替療法があれば、実際に臨床試験を行って国から「薬」としての承認を得れば良いわけですが、それができないが故に薬になっていないと言えます。
補完代替療法へ何を求めるか?
補完代替療法は、現在多くのがん患者さんが利用しています。
2005年に厚生労働省が行った調査では、がん患者さんのうち補完代替療法は44.6%が利用しており、そのうち96.2%が健康食品を利用しているという結果が出ました。3)
2017年日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団による調査では、補完代替医療の利用者は52.5%で、健康食品の利用は54%を占めていました。4)
次に、補完代替療法を利用している方はどのようなことを期待しているかを調査した結果をご紹介します。
2005年 厚生労働省の調査3) | 2017年 ホスピス財団の調査4) | |
1位 | がんの進行抑制(67.1%) | 精神的な希望(47%) |
2位 | がんの治癒(44.5%) | 免疫力向上(43%) |
3位 | 症状の緩和(27.1%) | 苦痛症状緩和(40%) |
4位 | 通常医療への補完(20.7%) | 病気の進行抑制(40%) |
5位 | ー | 病気の治癒(22%) |
この2つの調査は全く同じ条件で実施されたわけではないですが、この変化は何を意味しているのでしょうか?
個人的には補完代替療法のエビデンス(効かないというものを含む)が構築されてきたことや、その役割が認知されてきた結果のように思います。
ただし前述しましたが、「免疫力向上」、「病気の進行抑制」、「病気の治癒」には基本的に期待できないことに注意してください。
また厚労省の調査では、補完代替療法を始めるきっかけとして、個人的な選択(23%)に対して、家族・友人の勧め(77%)との結果が出ました。
特に家族の方が善意で「これでがんが治った人がいる」などど勧めてしまう場合は少なくありません。
そんな時は是非この記事の存在を伝えてあげてください。
利用するときに守ってほしい「5か条」
これまで事実をベースにお話してきましたが、ここからは私見です。
まずお伝えしたいのですが、僕は「補完代替医療は正しく理解して、上手に活用すること」が重要だと思っています。
「効くというエビデンスがないから、使わない方がいい」とは全く思っていません。
なぜなら補完代替医療は、効果だけでなく、「情緒的価値」を担っていると考えるからです。
このように言うと多くの医療従事者から反発されるかもしれませんが、情緒的な価値こそ、つらくて長いがん治療を乗り越えるためのモチベーションになると思っています。
治療を続けていく上で「少しでもよくなりたい」、「少しでも力になりたい」と考えるのは当然ですよね。
情緒的価値は言い換えると、治療の充実感であったり、家族の思いやりであったり、希望であったり…
とても重要な役割を担っていると僕は思います。
ただし、手放しで「良いもの」とは言えないのが補完代替療法の厳しいところ。
なぜなら効果が得られないばかりか健康被害を起こしたり、相互作用で既存の治療に悪影響を及ぼすことも。
または経済的な被害や、適切な医療を受ける機会損失を生じてしまうリスクがあるからです。
そこで補完代替療法を活用するとき、これだは守ってほしい5か条をご紹介します。
- テレビ、雑誌、インターネット等の医療情報は常に批判的に見る
- 標準治療を否定するものには近づかない
- 「がんが治る」と思わせるものには近づかない
- 利用する前に信頼できる情報源「eJIM」を確認する
- 医療従事者と常に情報を共有する
人の不安や恐怖心につけ込んで、高額で効かないものを効くと言って提供する補完代替療法の仮面を被ったビジネス、これほど嫌いなものはありません。
実際に多くの被害者の方を見てきました。
もしそのような商品(「がんに効く」など)や事業者を見かけたら、下記の厚労省のリンクからぜひ報告してください。
医薬品医療機器等法違反の疑いがあるインターネットサイトの情報をお寄せください|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
まとめ
今回、補完代替療法の定義からその位置づけ、調査データや注意点などをご紹介してきました。
補完代替療法を正しく認識して、上手に使ってもらえることを祈っています。
次回はもう少し具体的な情報の見方や活用方法などをお伝えしたいと思います。
またサプリメントや、薬との飲み合わせに関しては、医師より薬剤師の方が詳しいかもしれません。
気になることがあれば是非お気軽に相談してくださいね。
民間療法・健康食品の注意点
- 補完代替療法は、病気を治すことを目的としていない
- 「がんが治る」と謳っている商品は薬機法違反
- 国から薬として認められたものだけが「病気を治す」と言える
- 補完代替療法には、情緒的価値がある
- テレビ、雑誌、インターネット等の医療情報は批判的に見る
- 標準治療を否定するものには近づかない
- 「がんが治る」と思わせるものには近づかない
- 利用する前に信頼できる情報源「eJIM」を確認する
- 医療従事者と常に情報共有する
参考文献:
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第68条
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 | e-Gov法令検索 - 厚生労働省「医薬品産業の現状と課題」
000398096.pdf (mhlw.go.jp) - がん患者の補完代替医療に関する全国調査 – PubMed (nih.gov)
- 化学同人 大野 智 著「民間慮法は本当に効くのか」補完代替医療に惑わされないヘルスリテラシー p114-115
この記事を書いた人
薬剤師として総合病院に10年間勤務し、がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、NRサプリメントアドバイザーを取得 / 緩和ケアチーム立ち上げ / 2020年よりがん患者さん向けに情報発信を開始 /現在薬局で勤務しながら(株)Ribbons Baseを運営 / MBA(経営学修士) / 書籍 超リテラシー大全(サンクチュアリ出版)監修協力
にしかわ@がん患者さんのためのパーソナル薬剤師(@Pharma_nishi) / Twitter
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